生殖医療(研究の紹介) Research reproductive medicine

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妊娠するために子宮内膜機能を改善する!

  • 慢性子宮内膜炎の病態解明と治療方法の開発

  • 子宮内細菌叢異常の形成と着床機構への影響の解析と新規治療方法の開発

これまでに行ってきた研究

 慢性子宮内膜炎という状態の原因の解明と治療方法の開発に取り組んでいます。慢性子宮内膜炎は、子宮内膜の軽微な炎症と考えられており、本人が感じる臨床症状はほとんどないのですが、妊娠の成立や妊娠経過に悪影響を及ぼすことが明らかになってきました。しかし、この慢性子宮内膜炎が、なぜ起こるのか、どのように治療すると最もよいのかが分かっていません。当科診療責任者である木村らが中心となって、慢性子宮内膜炎が、着床障害(子宮内膜に卵子がうまく接着して育たない状態)となることを世界初となる前向き研究で明らかとした他、妊娠後の子宮内膜にも炎症が持続し、流産や妊娠高血圧症候群などの産科合併症の原因となり得ることを明らかとしてきました。これらの原因として慢性子宮内膜炎が、脱落膜化(子宮内膜が妊娠するために変化すること)障害を来すこと、脱落膜内のT細胞亜群に異常分布を来すこと(妊娠がうまく継続するための白血球のパターンが変化すること)、上皮間葉転換(細胞の形と性格が変わること)を障害することを明らかとしてきました。また、これらの治療方法として子宮内膜細胞を培養した研究でラクトフェリンの有効性である可能性を示しました。
 慢性子宮内膜炎の原因は、子宮内細菌叢異常が関係しているのかもしれませんが、実際のところ根本的な原因はわからないと考えられます。また、有効性が高い安全安心な治療方法が確立していませんので研究を続けています。

現在進行中、今後行う予定の研究

 今までの研究成果を踏まえ、子宮内の細菌叢(細菌の集団)の異常が本当に着床障害の原因となるのかどうかや、なぜ子宮内の細菌叢の異常が着床障害となるのかを研究しています。また、妊娠前、妊娠中に安全な細菌叢異常の治療法の開発にも取り組んでいます。そのほか慢性子宮内膜炎や着床障害の新しい診断方法の開発にも取り組んでいます。

卵巣内の卵子を守る!

① 婦人科疾患およびその治療による卵子減少機構の解明とその治療方法の開発

これまでに行ってきた研究

 遺伝的な理由、抗がん薬の使用、子宮内膜症に罹ってしまうことなどにより卵巣内にある卵子(原子卵胞)が、早くなくなることがわかっています。これまで卵巣内にある遺伝子の異常が、卵子の形成や無くなり方に影響すること、抗がん薬の卵子の影響を阻止する方法、子宮内膜症治療薬である黄体ホルモン剤の一種が、老化による卵子の減少を防止することなどをマウスを用いた研究で明らかにしてきました。また、実際に患者様に対しては、抗がん薬による卵子減少を卵子凍結や卵巣組織凍結保存により妊孕性の温存(妊娠する力を保っておくこと)や子宮内膜症の手術の際に卵子減少を防止する手術方法の開発に取り組んで参りました。

現在進行中、今後行う予定の研究

マウスを用いて抗がん剤や子宮内膜症による卵子減少を防止する新しいお薬の開発を行っています。また、実際に抗がん剤を用いた後に卵子が減少してしまっている状態に対しての新しい治療方法の開発にも取り組んでいます。

② がん患者の妊孕性温存療法を速やかに提供できるシステム構築

これまでに行ってきた研究

 小児や若者ががんにかかっても多くの人が完全に治るようになってきました。一方でその治療のために将来妊娠するための力が下がる、あるいは無くなってしまうことがあります。これらのことから妊娠する力を温存する可能性を考える必要のあるがん患者さんを速やかに紹介でき、必要に応じて妊孕性温存療法を行い、帰院後速やかにがん治療を行えるシステムを構築する必要があります。これらのシステムを考えて構築してまいりました。

現在進行中、今後行う予定の研究

 日本国内初となるがん生殖医療ネットワーク内でのオンライン情報システム構築とその効果の検証を行っています。

男性の精子機能不全を改善する

これまでに行ってきた研究

 体外受精では胚の発育過程で大部分が変性し、胚移植に到達しない採卵周期が多数見受けられます。原因は多岐に渡りますが、男性側の因子として、精子の受精に伴う分子の変化や、受精後の胚発育に影響を及ぼす精子の機能不全が挙げられます。従来の精液検査では、精子の形態や運動性が最も重要なパラメータと考えられており、このような分子レベルでの異常をスクリーニングすることができません。

  • 黒毛和種凍結融解精子の先体性状が人工授精結果に及ぼす影響の検討
  • 黒毛和種精子の先体チロシンリン酸化タンパク質とSPACA1タンパク質の関係の検討
  • ヒト射出精子の先体性状が体外受精結果に及ぼす影響の検討

 私たちはこれまで、上記の研究課題で精子先体の状態が人工授精や体外受精の結果を予測するために有効であるか調べました。その結果、ウシ精子では精子先体の脆弱性が妊娠率を低下させることがわかりました。また、ヒト精子では、受精に関わるタンパク質の正常な発現を示す精子の割合が高いと、胚盤胞発生率が高くなることがわかりました。
 今後も研究を通して、精子機能不全により胚形成が障害される難治性不妊の新しい治療法の開発を目指します。

現在進行中、今後行う予定の研究

「男性不妊の治療法の開発を目的とした精子Autophagyの解明」

論文の紹介

Minami K, Arai-Aso MM, Ogura-Kodama Y, Yamada A, Kishida K, Sakase M, Fukushima M, Harayama H. Characteristics of bull sperm acrosome associated 1 proteins. Anim Reprod Sci. 2020 Jul;218:106479. doi: 10.1016/j.anireprosci.2020.106479. Epub 2020 May 5. PMID: 32507260.

Kimura F, Kishida K, Horikawa C, Izuno M, Nakamura A, Kitazawa J, Morimune A, Tsuji S, Takebayashi A, Takashima A, Kaku S, Murakami T. The role of phospholipase in sperm physiology and its therapeutic potential in male infertility. J. of Mammalian Ova Research. 2018 Oct 35(2):43-52. doi: 10.1274/jmor.35.43

Harayama H, Minami K, Kishida K, Noda T. Protein biomarkers for male artificial insemination subfertility in bovine spermatozoa. Reprod Med Biol. 2017 Mar 20;16(2):89-98. doi: 10.1002/rmb2.12021. PMID: 29259456; PMCID: PMC5661804.

Kishida K, Harayama H, Kimura F, Murakami T. Individual differences in the distribution of sperm acrosome-associated 1 proteins among male patients of infertile couples; their possible impact on outcomes of conventional in vitro fertilization. Zygote. 2016 Oct;24(5):654-61. doi: 10.1017/S0967199415000623. Epub 2016 May 17. PMID: 27185107.

Kishida K, Sakase M, Minami K, Arai MM, Syoji R, Kohama N, Akiyama T, Oka A, Harayama H, Fukushima M. Effects of acrosomal conditions of frozen-thawed spermatozoa on the results of artificial insemination in Japanese Black cattle. J Reprod Dev. 2015;61(6):519-24. doi: 10.1262/jrd.2015-073. Epub 2015 Aug 21. PMID: 26300347; PMCID: PMC4685217.

niPGTの手技確立

これまでに行ってきた研究

 初期流産(妊娠12週未満)の半数以上は、染色体異常が原因であることが明らかになっています。この流産を回避するため、体外受精で得られた胚(受精卵)から一部の細胞を採取し、妊娠前に染色体異常の有無を検査する着床前遺伝学的検査(PGT)が考案され、臨床応用が進められています。
 しかしながら、胚から細胞を採取することは、少なからずダメージを与える可能性があり、妊娠率の低下や、PGTで生まれてくる児だけでなく、母体への影響も懸念されております。
 このような問題を解決するため、胚を培養した液から遊離 DNA(cell-free DNA:cfDNA)を回収し、胚の染色体状態を予測する非侵襲性着床前遺伝学的検査(Non-Invasive Preimplantation Genetic Testing:niPGT)が開発されました。
 現在、niPGT に関する研究は活発に行われておりますが、安定した精度が得られているとの報告はありません。本研究室では、臨床応用可能な安定した niPGT の手技確立を目指し、これから研究を進めてまいります。

現在進行中、今後行う予定の研究

「niPGTの精度に影響を与える因子の調査」
「臨床応用しうるniPGTプロトコルの作成」

論文の紹介

 現在、当科で niPGT に関する論文の発表はありません。

獲得研究費の紹介

 現在、当科で niPGT に関する研究費の獲得はありません。