婦人科診療内容
概要
当科における婦人科手術件数は近年増加の一途をたどっています。当院は県内唯一の都道府県がん診療連携拠点病院(厚生労働省指定)に指定されており、婦人科悪性腫瘍手術に対しては県内唯一の基幹病院として取り組んできました。内視鏡手術は我々が特に力を入れてきた分野で、2013年より本格導入した腹腔鏡下手術に加え、その経験をもとに、2019年からは手術支援ロボット「daVinci」を用いたロボット支援下手術を導入し、患者さんの体への負担の少ない、世界レベルの低侵襲治療を提供できるように取り組んでいます。また、若年の子宮頸がん患者さんに対しては、子宮を温存する広汎性子宮頸部摘出術を行い、妊孕性温存の希望に積極的に対応する体制を整えています。
手術療法では治療が困難な患者さんに対しては、放射線治療や抗がん剤治療を行い、最新治療・臨床ガイドラインに準拠した集学的治療を提供しています。また、緩和ケアチームによる癌患者さんに対する肉体的・精神的苦痛を早期から緩和する体制を整えています。また、癌治療にともなって生じる下肢リンパ浮腫に対してリンパ浮腫専門外来も開設いたしました。
治療対象の疾患に関しては、悪性腫瘍から骨盤臓器脱まで幅広く対応しています。一般病院では対応が困難な疾患や、婦人科疾患以外の合併症・既往症を有する患者さんに対しても、他科と密に連携をとって対応しています。また、当科では多様な病状を呈する子宮内膜症の患者さんに対する治療も専門的に行っています。ガイドラインに基づいた薬物療法を始め、疼痛緩和に対する手術療法、稀少部位内膜症に対する対応も他科と連携をとって積極的に行っています。
2019年6月現在、ロボット支援下手術や若年子宮頸癌に対する妊孕性温存手術を含め、本邦で実施が許されている婦人科悪性腫瘍手術の全てが実施可能となっています。今後も研鑽を重ね、最良・最新の治療を受診患者さんに提供できるように努めていきたいと考えています。
施設認定(婦人科関連)
- 日本産科婦人科学会総合型専攻医指導施設
- 都道府県がん診療連携拠点病院
- 婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG)参加登録施設
- 日本超音波医学会専門医研修施設
- 日本婦人科腫瘍学会専門医制度指定修練施設
- 日本臨床腫瘍学会認定研修施設
- 日本がん治療認定機構認定研修施設
- 日本産科婦人科内視鏡学会認定研修施設
- 日本女性医学会専門医認定研修施設
- 臨床遺伝専門医制度認定研修施設
婦人科悪性腫瘍に対する内視鏡手術(腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術)について
1.早期子宮体癌に対する腹腔鏡下子宮体癌根治手術
2014年4月1日より保険診療で治療を受けることができるようになりました。ただ、治療を行える施設は一定の症例数が必要などの規定があり、認定施設においてしか治療を受けることができません。当科はその認定施設となっており、多数の手術を実施しております。
2.早期子宮体癌に対するロボット支援下子宮体癌根治手術
平成30年4月より保険診療で治療を受けることができるようになりました。ロボット支援下手術は、従来の内視鏡手術(腹腔鏡下手術)とは異なるため、特別な資格を有する医師しか実施できず、また治療を行う施設に選定されるには様々な規定があります。当科は、2019年4月より、認定施設として手術を実施しております。
3.早期子宮体癌に対する腹腔鏡下傍大動脈リンパ節郭清術
傍大動脈リンパ節郭清術は、従来、開腹で行ってきた術式ですが、恥骨上から剣状突起まで皮膚切開を大きく切り上げるため、手術侵襲が大きくなることが問題になります。より低侵襲な内視鏡手術の導入が望まれる中、平成31年に「早期子宮体癌に対する腹腔鏡下傍大動脈リンパ節郭清術」が保険承認され、4月より保険診療として治療を実施できるようになりました。当科は、保険承認になる前から、先進医療による「早期子宮体癌に対する腹腔鏡下傍大動脈リンパ節郭清術」を実施してきておりますので、根治性・安全性は十分に担保されていると考えます。手術は日本婦人科腫瘍学会の腫瘍専門医および日本産科婦人科内視鏡学会の技術認定医が協力して行います。
4.早期子宮頸癌(IA2、IB1、IIA1期に限る)に対する腹腔鏡下広汎子宮全摘術
平成30年4月1日より保険診療下で実施が可能となった術式です。ただ、治療を行える施設は一定の症例数が必要などの規定があり、認定施設においてでしか治療を受けることができません。当科はその認定施設として、日本産科婦人科内視鏡学会の技術認定医、日本婦人科腫瘍学会の腫瘍専門医のエキスパートが担当し、根治性・安全性を担保して手術を実施しております。
5.手術支援ロボットを用いた広汎子宮全摘術(子宮頸がん)
本術式はH28年度より厚労省が制定する先進医療に認可されている治療です。当院では、同術式を、ロボット手術認定医師、日本婦人科腫瘍学会の腫瘍専門医のエキスパートが、根治性・安全性を担保して行ってまいりました。現在当院では、本術式を自由診療として実施しております(詳しい費用などは問い合わせください)。
再発子宮がんに対する救済手術について
初回治療後に残存または再発してしまった子宮がんの治療は非常に難しいとされています。特に、放射線治療をおこなった領域(照射野)に発生した再発・残存癌は、手術療法の難易度が高いため、本邦のほとんどの施設で手術以外の治療法(化学療法や緩和医療)が選択されているのが現状です。現行の化学療法には再発・残存子宮がんを完治させる力はないため、多くの場合、数年以内に命が危険にさらされることになります。
このような現状を少しでも改善したいと考え、2019年2月より、県内外からご紹介頂いた患者さんに対し、根治を目指した手術(広汎子宮全摘出術・骨盤内臓全摘出術・腟全摘出術・その他)を提供させていただいております。手術を希望される方は、「再発子宮がん手術専門外来」をご受診ください(詳細はこちらをご参照ください)。
若年の子宮頸がんに対する妊孕能温存手術(広汎性子宮頸部摘出術)について
子宮頸がんは、従来、子宮を摘出することで治療していましたので、妊娠する能力(妊孕性)は失われてきました。近年、妊孕性の温存を希望する若年の患者さんの一部に対して、子宮を温存する「広汎性子宮頸部摘出術」が安全・有効であることが確認され、本邦においても保険診療として実施されるに至っています。これまで、奈良県下では本術式を提供できず、県外の病院に紹介せざるを得ない状況でしたが、2019年2月に、当科において、本術式を実施できる体制が整いました。
今後は、子宮頸がんを患った若年女性の妊孕能温存にも積極的に取り組んで参りたいと考えています。経験豊富な日本婦人科腫瘍学会の腫瘍専門医が手術を担当させていただきます。
骨盤臓器脱に対する手術について
骨盤には子宮・膀胱・直腸などの臓器を支えている筋肉や靱帯があり、臓器が骨盤外に出ないように支えています。この筋肉や靱帯が緩み、子宮や膀胱、直腸が骨盤の中から膣に下がってくるのが骨盤臓器脱(または性器脱)ともよばれる状態で、中高年女性の快適な暮らしを妨げる病気です。加齢や出産が原因といわれ、薬では治せません。当科では、骨盤臓器脱に対し、従来の膣式子宮全摘術+前後膣壁縫縮術は勿論、腹腔鏡を用いた仙骨前面固定術など、患者さんの症状に合わせた手術療法を提供してきました。平成31年4月1日からは、ロボット支援下の仙骨膣固定術も実施可能となっています。
遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)について
遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)は遺伝性のがんのひとつで、乳がんや卵巣がんだけでなく腹膜がん、膵臓がんの発症リスクが高まる疾患です。BRCA1またはBRCA2という遺伝子の変異が原因とされており、変異があれば、生涯で卵巣がんを発症する確率が約15~40%になることが分かっています。卵巣がんは、症状が無いため早期発見が非常に難しく、多くが進行がんの状態で発見される病気です。そのため、欧米では、BRCA1またはBRCA2の遺伝子変異を有する女性に対し、“がんになる前に卵管・卵巣を予防的に摘出”する、「リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)」が推奨されています。
当院では、HBOCについての理解を深めて頂くために「遺伝カウンセリング外来」を設置しており、様々なカウンセリングを行うとともに、HBOCの可能性が疑われる患者さんに対する遺伝子検査も実施しています。また産婦人科では、倫理委員会の承認のもと、2014年 12月より、リスク低減両側卵管卵巣切除術(RRSO)を実施しています。HBOCの詳細、遺伝カウンセリング外来の受診方法、また治療の詳細については、こちらをご参照ください。
リンパ浮腫外来について
婦人科がんにおけるリンパ節郭清や放射線治療後に下肢にリンパ浮腫が発症することがあります。当院では2016年9月よりリンパ浮腫外来を開設しています。専門のリンパドレナージセラピスト2名がケアにあたり、症状・合併症の有無、生活環境などに配慮ながら、国際的に承認されている「複合的治療」を行います。「複合的治療」では、①日常生活指導、②スキンケア、③用手的リンパドレナージ、④弾性ストッキング着用、⑤運動療法を組み合わせてケアを行います。なお、すべて自費診療になり、保険診療では行っておりませんのでご了承ください。
緩和ケアセンターについて
がんと診断された患者さんは、がんによる痛みなどの様々な肉体的苦痛に加え、落ち込み・悲しみなどの精神的苦痛を経験します。がんに対する治療を継続していくためには、がんと疑われた瞬間から、これらの苦痛を緩和し、患者さんだけでなく、家族の生活の質を向上させること(緩和ケア)が重要とされています。
緩和ケアセンターでは、身体症状を担当する医師だけでなく、精神症状を担当する医師、緩和ケア専従のがん看護専門看護師、薬剤師、臨床心理士(カウンセラー)によるスタッフによるきめの細かいケアを行っております。一人で、病気のことを抱え込まず、スタッフにお気軽に相談ください。緩和ケアのスタッフは、患者さんの悩みや不安について、一緒に考え、納得できる選択をするための支援を行っていきたいと考えています。
外来化学療法室について
がんの治療においてがん化学療法(抗がん剤治療)は入院して行うことが一般的でしたが、現在では副作用対策により家庭で生活をしながら通院により治療を行うことが可能になりました。外来化学療法室では、現在リクライニングチェア18、ベッド8、計26床の専用治療病床に加え、各病床にはパーソナルTVモニターを備え、オーディオスピーカーからは耳に心地よいBGMを流しています。また、男女別および多目的トイレ、家族待機場所も確保するなどのアメニティーに配慮したゆったりしたスペースとなっています。外来診療室には診察ブースのほか、落ち着いて患者さんとお話ができる面談室があります。
医療スタッフは、がん薬物療法専門医・指導医を含む専従医師、がん化学療法看護認定看護師を含む専任看護師、がん薬物療法認定薬剤師を含む専任薬剤師で無菌調剤から薬剤の投与、有害事象の対応、患者ケアならびに指導を行っています。
外来化学療法室