教授挨拶

人を育み、夢を叶える

2021年9月より奈良県立医科大学 産婦人科学講座 教授を務めさせていただいています木村文則と申します。奈良県立医科大学の産婦人科は、初代教授 足高善雄先生が、1945(昭和20)年に就任され開講されましたことに始まります。現在までに数多くの素晴らしい医療者、研究者を輩出してまいりました。私たちも先人の熱い情熱を引き継ぎ、医療者として地域社会への医療貢献を行うとともに研究者として真理の追求により医学の進歩に寄与したいと考えています。

医療や研究に対するエネルギーは、豊かな人間性に基づくと考えます。医師は、人の生命にかかわる仕事であるという自覚が必要ですが、そのために患者さんにも意思や願い、そして歩んでいる人生があり、大切な家族があることを常に思い描ける能力を身につけなければならないと考えます。この能力は、医療者としての高いモチベーションの根幹を形成するはずです。医療は人の命を救うための仕事ですが、もともと何のために医療を行うかという根源的なことを深く考えて行く必要があります。お恥ずかしい話ですが、40歳半ばでようやく私自身は、このことをがん・生殖医療を通じて実感したのですが、その後の医療者としての自覚と行動が大きく変わったように思っています。初めて医師となれたような感覚になったのを覚えています。
産婦人科は、生命誕生を通し家族形成に関わるとともに人の死に携わる診療科です。患者さんの人生と深く関わるという意味を常に考え、診療、研究を行える豊かな人間性を有した人財の育成に取り組んでいます。

患者さんの診療におきましては、本邦における少子化、晩産化、高齢化を勘案し、産婦人科医のあり方を常に考える必要があります。妊娠合併症の治療、分娩、内視鏡下手術、悪性腫瘍手術、体外受精、骨盤臓器脱手術などを見てもバラエティに富み、それぞれ独自の知識とスキルを要します。大学病院として産科、婦人科腫瘍、生殖医学、女性医学のサブスペシャリティをバランスよく診療することができるよう充実させるとともに、関連病院と連携し地域医療を支える使命を果たしています。 私たちの教室は、中に入れば驚かれるくらいみんな仲良く、笑顔が絶えず、チーム一丸となって診療に取り組んでいます。患者さんには、お体だけでなく心のサポートもできると思います。安心して診療を受けていただきたいと思います。また、若い医師のためにスペシャリストとして、一流の医療者として成長していただくための研修システムも整えています。厳しさの中にも温かみと楽しさを持って成長できると思います。

患者さんを診療していくうえで現存の治療方法では治療できない、患者さんの希望が叶わないということを多々経験します。医療者としては非常につらい瞬間で今の医療のレベルの限界を思い知らされることがあるわけですが、これに慣れっこになってはいけないと考えます。医療の限界を問題として認識し解決していこうとする意欲が非常に大切です。これが、医学研究につながります。日々、その疾患の診断・治療の限界の理解に努め、それに基づいた基礎研究や臨床研究による新しい進んだ医療を考案していくことが必要です。日々の診療の中から沸きあがってくる臨床的疑問や問題点について豊かな創造性をもって研究に取り組み、世界へ発信できるよう教室員みんなで取り組んでいます。

充実した診療と研究を行うことにより多くの患者さんを笑顔にすることと医局員がさらにワクワクしながら仕事ができるような教室をつくっていくことが大きな夢であり責務であると考えています。